eKYCの導入を検討するうえで、知っておきたいのが犯罪収益移転防止法です。ここでは、犯罪収益移転防止法とはどういった法律なのかをはじめ、制定された背景や改正による変更点、犯罪収益移転防止法で定められているeKYCの定義などを解説します。
犯罪収益移転防止法(犯収法)は、マネー・ローンダリングやテロ資金供与などの犯罪による収益の移転防止を図ることを目的とした法律で、金融機関をはじめとした特定の事業者に対して取引する際の本人確認等について定められています。
組織的な犯罪行為に必要な資金を不正な取引で得る、マネー・ローンダリングやテロ資金供与が世界中で拡大。特に規制の緩い国で行なわれる傾向にあることから、犯罪組織や犯罪行為の撲滅を図るには国際的な協調が求められています。
日本でも国際的動向を受けて、現在の犯罪収益移転防止法の基礎となる「組織的犯罪処罰法」「金融機関等本人確認法」を施行。金融機関等での不正な取引を想定した法体系となっていましたが、マネー・ローンダリングの手口が複雑化・巧妙化していることから、金融機関等以外にも事業者の範囲を拡大した「犯罪収益移転防止法」が平成20年3月から全面的に施行されることとなりました。
犯罪収益移転防止法は、これまでにも何度か改正が行われています。
そのなかでも特に注目したいのが、平成30年11月に施行された法改正です。それまでの本人確認では対面による本人確認書類の提示、または写真付き本人確認書類の写し添付及び郵便による住所確認が必須でした。
それが平成30年の法改正によって、オンライン上で本人確認を完結できるeKYCが認められるように。また、郵便での住所確認が不要となり、新たな本人確認要件として提出者の容貌確認等が追加されています。
参考までに平成30年以前に施行された法改正での主な変更点についてもまとめました。
【平成23年改正犯罪収益移転防止法の主な変更点】
【平成26年改正犯罪収益移転防止法の主な変更点】
犯罪収益移転防止法の対象となる事業者を特定事業者と呼び、特定事業者には取引時確認をはじめとした一定の義務が課されています。
これまでにも金融機関等本人確認法及び組織的犯罪処罰法により、金融機関等には本人確認や疑わしい取引の届け出等の義務が課されていましたが、犯罪収益移転防止法では対象となる事業者の範囲が拡大。犯罪収益移転防止法で定められている特定事業者及びその義務は以下の通りです。
【特定事業者】
【特定事業者に課される義務】
「コルレス契約締結時の厳格な確認」「外国為替取引に係る通知」については、業として為替取引を行なう事業者にのみ適用されます。また、「取引時確認等を的確に行うための措置」については、カジノ事業者には特定複合観光施設区域整備法において別途その義務が定められています。
特定事業者であっても、すべての業務において義務が課されているわけではありません。犯罪収益移転防止法では義務の対象となる範囲が定められており、これを特定業務と言います。また、取引時確認についても、すべての取引が対象ではなく、特定業務のうちの一定の取引(特定取引等)において求められる義務です。
対象事業者に定められている特定業務と特定取引等について詳しく見ていきましょう。
【金融機関等】
【ファイナンスリース事業者】
【クレジットカード事業者】
【カジノ事業者】
【宅地建物取引業者】
【宝石・貴金属等取扱事業者】
【郵便物受取サービス業者】
【電話受付代行業者】
特定業務:電話受付代行業務
特定取引:役務提供契約の締結
※電話による連絡を受ける際に代行業者の商号等を明示する条項を含む契約の締結は除く
※コールセンター業務等の契約の締結は除く
【電話転送サービス事業者】
【司法書士等の士業者】
※上記の取引に加え、特別の注意を必要とする取引も特定取引に含まれます。
※敷居値以下の取引についても、1回あたりの取引金額を減少させるために取引を分割していることが一見して明らかなものは、特定取引に該当する場合があります。
特定事業者が特定取引等をする際、顧客及び代表者等に対して取引時確認が法的義務として定められています。また、特定取引には「通常の特定取引」と「ハイリスク取引」があり、どちらに該当するかで確認事項や確認方法が異なります。
顧客等に対する通常の特定取引の場合、「本人確認事項」「取引を行なう目的」「職業(自然人)または事業の内容(法人・人格のない社団または財団)」「実質的支配者(法人)」の確認が必要です。
ハイリスク取引においては、通常の特定取引での取引時確認に加えて「資産及び収入の状況の確認(該当取引が200万円を超える財産の移転を伴う場合)」が必要。また、ハイリスク取引の取引時確認では、「本人特定事項」及び「実質的支配者」については通常の特定取引よりも厳格な方法で確認することとされています。
取引時確認における本人確認事項については後ほど解説するとして、そのほかの取引を行なう目的や職業・事業の内容、実質的支配者、資産及び収入の状況の確認方法について詳しく見ていきましょう。
【取引を行なう目的の確認方法】
取引を行なう目的の確認方法としては、通常の特定取引・ハイリスク取引のいずれにおいても顧客等またはその代表者等から申告を受ける形になります。たとえば口頭での確認、または特定事業者が作成した類型のチェックリストでのチェック等です。
【職業・事業内容の確認方法】
顧客等が自然人または人格のない社団・財団の場合は、顧客等またはその代表者等から申告を受ける形になります。申告を受ける方法については、取引を行なう目的の確認と同様です。
顧客等が国内法人の場合は、登記事項証明書、定款等の書類またはその写しで確認する方法となります。確認方法には顧客等から提示または送付してもらう、または特定事業者において当該書類を確認する方法も含まれます。
顧客等が外国法人の場合は、国内法人の場合と同様の方法に加えて、「日本国が承認した外国政府が発行している書類等で当該法人の事業の内容の記載があるもの」またはその写しを確認する方法も含まれます。
【実質的支配者の確認方法】
実質的支配者とは、法人の事業経営者を実質的に支配することが可能な関係にある者のことです。
実質的支配者の確認方法としては、通常の特定取引の場合は当該顧客等の代表者から実質的支配者の本人特定事項についての申告を受ける方法となっています。
ハイリスク取引の場合は、顧客等の株主名簿や登記事項証明書等の書類またはその写しを確認。さらに当該顧客等から実質的支配者の本人特定事項について申告を受ける方法となります。
【資産及び収入の状況の確認方法】
資産及び収入の状況は、顧客等の書類またはその写しで確認します。確認する書類は顧客等が自然人または法人のどちらかで異なり、顧客等が自然人の場合は源泉徴収票、確定申告書、預貯金通帳、その他資産及び収入の状況を示す書類を使用。法人の場合は、損益計算書、貸借対照表、その他資産及び収入の状況を示す書類が用いられます。
仮名取引やなりすましによる取引の防止を防ぐために、特定事業者は運転免許証等の公的証明書を使って本人特定事項を確認する必要があります。本人特定事項は対象が自然人(個人)または法人のいずれかで異なり、自然人の場合は「氏名」「住居」「生年月日」、法人の場合は「名称」「本店または主な事務所の所在地」の確認が必要です。
【自然人(個人):必要な書類】
外国人を除く自然人の本人特定事項の確認には、以下1~3のいずれかに該当する書類が必要です。
日本国内に住居を有していない短期在留者(観光者等)で、旅券等の記載によって属する国における住居を確認できない場合は、氏名・生年月日の記載がある旅券、乗員手帳、船舶観光上陸許可書が必要になります。
また、日本国内に在留していない外国人の場合は、上記1・2番の書類に加えて、日本国政府の承認した外国政府または国際機関の発行した書類等で本人特定事項の記載があるものが必要です。
そのほか、日本人で上記の書類に所在地が記載されていない、または書類記載の住所と現在の所在地が異なる場合は、以下の補助書類を提示または送付して現在の住居等を確認する必要があります。
【自然人(個人):本人特定事項の確認方法】
本人特定事項の確認方法は、通常の特定取引またはハイリスク取引のどちらに該当するかで異なります。
通常の特定取引の場合、自然人の本人特定事項を確認する方法としては「対面」「非対面」「本人限定郵便」「電子署名」の4つの方法があり。ハイリスク取引の場合は、通常の特定取引での確認方法に加えて、契約時の本人確認において使用した書類以外のものを少なくとも1点は提示または送付する必要があるとされています。
【法人:必要な書類】
日本国内に本店または主たる事務所がある法人については、以下いずれかに該当する書類が必要です。
外国に本店または主たる事務所がある法人については、国内に本店または主たる事務所がある法人の必要書類に加え、日本国政府の承認した外国政府または国際機関の発行した書類等で本人特定事項の記載があるものが必要になります。
【法人:本人特定事項の確認方法】
法人においても、通常の特定取引またはハイリスク取引のどちらに該当するかで確認方法が異なります。
通常の特定取引の場合、法人の本人特定事項を確認する方法としては「対面」「非対面」「電子署名」の3つの方法があり。ハイリスク取引の場合は、自然人と同様に通常の特定取引での確認方法に加えて、契約時の本人確認において使用した書類以外のものを少なくとも1点は提示または送付する必要があります。
犯罪収益移転防止法に準じた本人確認の手法として、14パターンの手法が定義されています。
イ | 対面にて、写真付き本人確認書類1点提示 |
ロ | 対面にて、写真付き本人確認書類1点提示 + 転送不要郵便物等による到達確認 |
ハ | 対面にて、本人確認書類2点提示 |
ニ | 対面にて、写真付き本人確認書類1点提示 + 住所記載の補完書類1点送付 |
ホ | 専用ソフトウェアにて、写真付き書類の写し1点送信 (厚みその他の特徴&本人確認時に撮影されたもの) + 容貌(本人確認時に撮影されたもの) の送信 |
ヘ | 専用ソフトウェアにて、写真付き・ICチップ付き本人確認書類のIC情報送信 + 容貌(本人確認時に撮影されたもの)の送信 |
ト | 専用ソフトウェアにて、写真付き書類の写し1点送信(厚みその他の特徴&本人確認時に撮影されたもの または写真付き・ICチップ付き本人確認書類のIC情報の送信の確認 + 銀行・クレジットカード情報との照合または既存銀行口座への振込 |
チ | 本人確認書類の原本1点送付 または写真付き・ICチップ付き本人確認書類のIC情報送信 または写真付き書類の写し1点送信(厚みその他の特徴&本人確認時に撮影されたもの) + 転送不要郵便物等 |
リ | 本人確認書類2点の送付 または本人確認書類の写し1点+補完書類1点の送付 + 転送不要郵便物等 |
ヌ | 給与振込口座の開設 または有価証券でマイナンバー済みの場合は本人確認書類の写し1点送付 + 転送不要郵便物等 |
ル | 本人限定郵便(受取時の確認書類は、写真付き本人確認書類である必要ありのもの) |
ヲ | 電子証明書+電子署名 |
ワ | 公的個人認証(電子署名) |
カ | 特定認証業務の電子証明書+電子署名 |
情報参照元:TRUSTDOCKhttps://biz.trustdock.io/column/commonly_used_ekyc
犯収法では2020年4月1日の改正により、本人特定事項の確認における郵送不要の新手法方法として「ホ」「ヘ」「ト」及び公的個人認証を活用した「ワ」の要件が定義されました。それぞれの要件について見ていきましょう。
【「ホ」の要件】
ホの要件では、写真付き本人確認書類の写し画像1点と本人の容貌を撮影した画像1点が必要です。本人確認書類は身分証等の原本を直接撮影する必要があり、身分証をコピーした紙を撮影したものを使用するのは認められていません。また、撮影後すぐ送信するのが原則となっているため、あらかじめスマートフォン等に保存していた画像をアップロードするのもNGです。
【「ヘ」の要件】
ヘの要件では、身分証等に埋め込まれたICチップ情報と本人の容貌を撮影した画像データ1点が必要です。ICチップが埋め込まれている身分証としては、IC運転免許証、パスポート(IC旅券)、在留カード、マイナンバーカードなどがあげられます。ICチップの読み取りには取得時に設定したピンコード(暗証番号)の入力が必要です。
【「ト」の要件】
トの要件では、写真付き書類の写しデータ1点または身分証に埋め込まれたICチップの情報に加え、銀行・クレジットカード情報との照合確認か既存銀行口座への振込確認が必要です。本人の容貌撮影に代わって、金融機関との連携が必要となります。
また、本人確認時のタイミングで「銀行に登録してある情報を最新のものに更新」「銀行のオンラインバンキングサービスにてアカウントを開設」「オンラインバンキングサービスのログインID・パスワードの記録・管理」が求められるため、「ホ」「へ」の要件と比べて難易度が高いと言えるでしょう。
【「ワ」の要件】
ワの要件とは、マイナンバーカードのICチップ情報を読み取り専用デバイスまたは読み取り対応スマートフォンアプリで取得し、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)が提供する公的個人認証サービスを通じて本人確認を完了する方法のことです。読み取りに対応しているスマートフォンアプリがあれば約10秒で本人確認を完了できるため、マイナンバーカードを持っているユーザーにとっては最も速い本人確認方法と言えるでしょう。
犯罪収益移転防止法では、法人の本人確認についての対応要件が厳格に規定されています。主なチェックポイントは「存在確認」「反社チェック」「住所確認」の3つです。
【存在確認】
法人の本人確認における存在確認とは、取引相手の法人が架空法人じゃないかを確認する作業のこと。存在確認の方法として最も簡易的なのが、国税庁法人番号公表サイトでの検索によるチェックです。国税庁法人番号公表サイトでは、対象企業の商号または名称、本店または主たる事務所の所在地、法人番号といった基本情報を確認できます。
さらに、資本金や事業目的、役員などを確認したい場合は、一般社団法人民事法務協会が提供する登記情報サービスや、東京商工リサーチ・帝国データバンクといった与信管理等を行なう情報団体の有料資料を利用するのも有効な方法です。
【反社チェック】
反社チェックでは、取引相手となる法人や所属メンバーが反社会的勢力及び反市場勢力の疑いがないかどうかを確認します。多くの企業が行なっているのが、以下のソースを組み合わせて確認する方法です。
新聞記事データ検索なら日経テレコンやRISK EYESなど、反社会的勢力情報データベースとしてはエス・ピー・ネットワーク社による各種ソリューションなどがあげられます。
【住所確認】
住所確認では、法人が申請している住所に郵便物が届くかどうかの確認を行ないます。
法人が法人登録を行なう際に法務局に届け出る各種書類では、住所を含めた記載事項が正しいかどうかの厳密なチェックは行なわれません。ダミー住所を届け出て架空法人を設立することは可能なため、本当にオフィスが稼働しているかどうかは、往復はがき等による住所確認が有効です。
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