金融サービスを使ったマネー・ローンダリングが国際的な問題になっており、その対策として金融機関では継続的顧客管理の実施が求められています。ここでは、継続的顧客管理とはどういったものなのかをはじめ、実施する方法や必要性、課題などについて解説します。
継続的顧客管理とは、取引先の顧客に対して本人確認等を継続的に実施し、顧客に関する情報を定期的に最新化する取り組みのこと。継続的顧客管理を行なう目的としては、なりすましや銀行口座等の不正利用の防止があげられます。
金融庁が発表している「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」においても、継続的顧客管理をマネロン・テロ資金供与対策におけるリスクベースアプローチ(リスク低減措置)の一環として提示。また、マネロン・テロ資金供与対策等の国際基準を作ろうと設立されたFATFの「第4次対日相互審査報告書」にて、日本の取り組みが不十分という指摘を受けたことから、継続的顧客管理は主に金融機関において非常に重要な取り組みの1つとされています。
継続的顧客管理の方法としては、現在登録されている顧客情報に変更がないかを問う質問票の送付・回収などを通して顧客の実態を把握し、リスク評価の見直し及びリスクに応じた対応が求められています。
リスクに応じた対応というのは、リスクの度合に応じて顧客に対する調査範囲や手法、更新頻度などを決めていくというもの。リスクが低い顧客であれば、質問票を送付する頻度を少なくするといった顧客管理の簡素化を図るというわけです。
継続的顧客管理を行なううえで注意したいのが、リスク評価を行なうのが目的ではないということ。継続的顧客管理ではリスクに応じた対応を取ることがポイントになるため、リスク評価をしたら終わりではなく、評価をもとにした対応を取るまでをセットにして取り組む必要があります。
金融庁の「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」(※)においても、顧客管理で対応が求められる事項について提示されているため、対応を取り決める際の参考にしてください。
※参照元:【PDF】金融庁「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」https://www.fsa.go.jp/news/r3/202203_amlcft_faq/202203_amlcft_faq.pdf
継続的顧客管理が必要とされる最大の理由は、なりすましや銀行口座の不正開設・利用を防止するためです。架空の顧客情報を使って銀行口座を不正に開設する主な目的としては、犯罪組織によるマネーローンダリング(資金洗浄)があげられます。
マネーロンダリングとは、犯罪によって得た資金(汚れたお金)の出所を分からなくするために、架空の顧客名義の銀行口座などを利用して送金を転々と繰り返したり、株・債権の購入や大口寄付などを行なったりすること。捜査機関による差し押さえや摘発を逃れるために行なわれており、テロ組織の資金調達ルートとしても利用されていることから、国際的な問題となっています。
銀行口座を不正に使った手口を防止しようと、本人確認等を実施する継続的顧客管理が重要視されています。
継続的顧客管理で求められているのは、顧客ごとのリスク評価に基づく対応です。金融機関は膨大な数の顧客や取引を抱えており、すべての顧客に対して厳格なリスク低減措置を実施することは実効性の観点から考えても現実的ではありません。だからと言って、簡素な措置で済ませてしまっては、継続的顧客管理の目的であるマネーローンダリングやテロ資金供与の防止につながりません。
だからこそ、継続的顧客管理では顧客ごとのリスク評価が重要となるのです。マネーローンダリング等を行なうリスクの高低を顧客ごとに評価しておくことで、どの顧客に対して厳格なリスク低減措置を行なえばいいのか判断しやすくなります。顧客管理を効率的に行えるようになれば、リスク低減措置の実効性も高まるでしょう。
マネーローンダリングやテロ資金供与の対策基準を作っている国際組織のFATFでは、加盟国の金融機関の取り組みに対する審査が定期的に行われています。
2021年の審査にて日本の対策は不十分という指摘を受けており、金融庁でも2021年2月に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表。ガイドラインでは、金融機関に対して2024年3月までに継続的顧客管理の完全実施を求めています。
期限を過ぎても継続的顧客管理の取り組みが不十分な金融機関に対しては、業務改善命令や業務停止命令などの行政処分を出すとのこと。それにより、金融機関の対策強化の促進を図るのが狙いです。
金融庁から継続的顧客管理の取り組みが義務づけられたことにより、金融機関は2024年春までの完全実施を目指した迅速な対応が求められています。一方で、金融機関の抱える膨大な顧客に対して定期的な顧客情報の確認を行なうとなると、業務に与える影響は計り知れません。
また、顧客情報を確認したら終わりではなく、回収した情報のデータを整理し、変更点のチェックや疑わしい項目がないかなどの審査も行なう必要があります。
膨大な顧客情報の管理による業務負荷に加え、そこに発生するコストもかなりのものになります。継続的顧客管理にかかるコストとしては、DMのデザイン制作や書面の作成、印刷代、郵送料や電話料金、問い合わせに対応するためのコールセンターのマニュアル作成、確認・データ整理作業に必要な従業員の人件費など。
これらのコストが継続的に発生することになるため、金融機関にかかる負荷はかなりのものになるでしょう。
膨大な顧客情報を迅速に確認するとなると、効率的な業務フローの構築および運用するためのノウハウが必要になります。ただ、これまで金融機関では継続的顧客管理が求められてこなかったため、迅速な確認に必要なノウハウが不足しているのが現状です。そのため、効率的な業務フローの構築および運用するためのノウハウを蓄積するのに、かなりの時間を要することが予想されます。
継続的顧客管理にeKYCを導入する場合、金融機関は顧客に対してeKYCシステムを案内するメールまたはQRコードを印刷したハガキを送付して、システムへの誘導を図ります。それによりオンラインで本人確認を完了できるほか、本人確認の進捗をオンラインで追跡することも可能です。
ただ、どのみちメール配信やDMを送付するのであれば、従来の本人確認とそこまで負担は変わらないのでは、と気になる方もいるかもしれません。eKYCシステムを提供しているベンダーによっては、本人確認業務にかかわるBPOサービスに対応しているところもあります。そういったベンダーに本人確認業務をアウトソーシングすることで、継続的顧客管理のスムーズなeKYC化を実現できるでしょう。
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